高齢ドライバーとの接し方
(九州大学志堂寺教授・日本交通心理学会副会長インタビュー)

高齢者夫婦

九州大学志堂寺教授
(九州大学志堂寺教授・日本交通心理学会副会長インタビュー ※2020年5月15日収録)
― 家族としては、どういう状態になったら、親の運転について気にした方がいいのでしょうか。  

 これまで見られなかったような運転が少しでも出始めたのであれば、気にしたほうがいいと思います。  端的に言うと“運転が下手になった”ということですが、スムーズに停止できずにカクンと停止する、ハンドルの切り方がスムーズでないといった兆候です。さらに運転能力が低下していくと、事故には至らないがヒヤリとすることも増えてきます。こういったことは親御さんの車に同乗するか、普段同乗している人に聞いてみないとわかりません。この時期、クルマに小さなキズや凹みが増えてくることもあるので、親御さんのクルマをちらりと見るようにしておくのもひとつの方法です。  誰しも運転ができなくなるときが来るので、運転に変化が起きる前、日常生活で年をとったなと感じるようなことが増えた時から、親御さんが運転できなくなったときの生活について考え始めるのがいいと思います。

― 家族として高齢ドライバーである親や祖父母などの運転が危ないと感じた時、どんなタイミングで切り出すのが良いでしょうか。  

 どんな形で切り出すかは、本人の性格と、本人とご家族との関係次第だと思います。家族から話を聞いて「なるほどと思えば受け入れることができるタイプの人」と、「まったく聞く耳を持たずにすぐに拒絶してしまうタイプの人」では全く異なります。加えて、本人とご家族の関係が良ければ話は切り出しやすいですが、悪ければ非常に難しくなります。ですから、ケースバイケースでの対応が必要です。ただし、どのような場合でも「運転の危険性を大げさに伝える」「ご本人のプライドを傷つける」「運転し続けていることに対して文句を言い続ける」といったことは絶対に避けるべきです。

― 危なっかしい運転が続く場合は、どういう形で説得していくのが好ましいでしょうか。
高齢ドライバーへの説得

 まずは警察庁がすすめている「補償運転」のように、危ない運転場面を減らす方向が良いと思います。最初の段階では、夜や雨の日は運転をやめる、遠出はしない、体調が悪いときは運転しないなど、運転が難しい場面を作らないようにします。補償運転をさらに進める必要がある場合は、駅、病院、スーパー、老人施設など、どうしても行く必要がある場所、普段から行き慣れた場所、運転しやすい時間帯に限って運転するようにします。そこまで運転を絞ったとしても危険が無くならない場合は、いよいよ運転免許証の返納を検討するしかありません。  補償運転から免許返納する段階に至るまでにかかる時間は、ドライバーによって大きく異なり、あっという間に免許返納せざるを得なくなる方もいれば、徐々に移行していく方もいます。また、運転する場所が都会なのか地方なのかによっても大きく異なります。いずれにせよ、運転の危険性をできる限り減らすこと、高齢ドライバーの利便性をできる限り損なわないこと、この二つを両立しながら現実的な答えを探っていくことが大切になります。  また、補償運転を始める頃から免許返納した場合の生活、特に移動手段の検討を始める必要があります。免許返納の必要性が差し迫ってから検討するのでは遅すぎます。まだまだ運転できる時から代わりの移動手段を調べ、本人に伝えておくことが大切です。免許返納によって気落ちしてしまい、さらに外出しなくなるというケースも耳にしますので、親の外出の機会を減らさないためにどうすればよいのかを予め考えておくことが大切です。

― 補償運転に加えて、ドライブレコーダーやドラレコ付きサービスを活用する、サポカーなどに搭載されている安全装備を活用するといったことの有効性はどうでしょうか。  

 最近のクルマは安全装備が充実していますので、マイカーに安全装備が搭載されているのであればできる限り積極的に活用したほうが良いと思います。高齢ドライバーには、昔買った古いクルマを乗り続けている方もおられます。愛着があるのでしょうし、買い替えはもったいないと思うこともわからなくもありません。しかし、安全を考えると、高齢者ほど新しい安全装備がついたクルマに乗るべきです。ある程度の年齢になってしまうと、クルマを買い替えようとは思わなくなってしまうので、予め計画を立ててそういった年齢になる前に安全装備が充実しているクルマに乗り換えておくべきでしょう。  ドライブレコーダーは自分自身の運転能力を見極めるために、有用です。ドラレコ付きサービスには運転傾向のレポートを出してくれるサービスもあるようですが、レポートを家族に共有してもらうかどうかはドライバーご本人の意思を尊重すべきです。家族が安心するためには、レポートを共有してもらった方が良いですが、ご本人にそういう気持ちがないにもかかわらず、家族が無理に共有を求めることは控えるべきです。

(参考)免許返納までの家族での検討の流れ

免許返納までの家族での検討の流れ免許返納までの家族での検討の流れ
― 免許返納することになった場合、家族としてはどういうことに気を遣うべきでしょうか  

 免許返納は高齢ドライバー本人の問題ではあるのですが、周りがどれだけサポートするかが非常に大切です。先ほど述べたように、免許返納の必要が差し迫る前から家族も色々と調べておく姿勢が重要です。  免許返納することで高齢ドライバー本人の精神面に影響が出そうであれば、『大切な親に、これなら「決心」させられる!免許返納セラピー』に書いているように、免許返納のタイミングと合わせて気持ちが和らぐようなイベントを行うのも一案です。

― 補償運転の考え方には家族同士でサポートするということも含むのでしょうか。
電話中の高齢ドライバー

 もちろん含みます。父親の運転に不安があるが、母親の運転は問題ないという場合は、長距離や夜間などの運転は母親に委ねたほうが良いと思います。また、これまで両親にクルマで来てもらっていたのであれば、今後は自分がクルマで両親を訪ねる形に切り替えていきましょう。  高齢ドライバーが免許を手放すことになった場合の不安には、①生活の不安、②ご自身の能力の低下に伴う不安という2つの不安があります。生活の不安については、免許返納後に家族が支えてくれることが分かっていればある程度解消することができます。一方、能力の低下に伴う不安は、家族の協力があっても簡単には解消できません。運転することや、ゴルフや釣りなど運転が必要となることだけが楽しみである人の場合、運転を必要としない新しい楽しみが必要になるからです。その場合でも新しい楽しみを見つけられるよう、家族がそっと支えてあげることが大切です。

― 遠方に住んでいる家族の場合、どうやって運転を続ける親を説得すればよいでしょうか。  

 高齢ドライバーに免許返納を説得するためには、ご本人との信頼関係が極めて重要です。家族であっても遠方に居住していて滅多に連絡を取らないような関係であれば、説得することは難しいと思われます。そのため、離れて住んでいても頻繁に連絡をとるなど信頼関係を構築するための努力を予め重ねておくことが大切です。そうやって信頼関係を作りつつ、免許返納後の生活についてしっかりと準備をしておき、それから免許の返納をしても大丈夫であることを伝えていくという手順がいいと思います。