免許返納者の声

免許返納車の声

  『大切な親に、これなら「決心」させられる!免許返納セラピー』から免許返納の説得に成功したご家族の体験談をご紹介します。これらの事例を参考にご家族でお話しされてはいかがでしょうか。 ※九州大学大学院教授・日本交通心理学会副会長 志堂寺和則氏監修『大切な親に、これなら「決心」させられる!免許返納セラピー』の著者の承諾を得て書籍の一部を引用させていただいております。

成功例「親戚を巻き込んだ叔母の勝算」

高齢ドライバーへの説得
※写真はイメージです。
 叔母から「お父さん(夫)に自主返納させたいの。適当に隣で相づちを打ってくれるだけでいいから来てくれない?」と連絡を受けました。  叔父は82歳。昨年末あたりから物忘れが増え、車で出かけて行方がわからなくなったり、大切にしていた車にキズをつけて帰ってくるようになったとか。  心配に思い行ってみると、私の他に3人、叔父の姉と弟たちが呼ばれていました。私と同じく叔母から頼まれて、説得のために集まったそうです。  こうして叔母の“夫の返納説得作戦”が始まったのですが、一番力を発揮したのは叔父の2つ上のお姉さんでした。奥さんである叔母が話しても「うるさい」「人を年寄り扱いするな」とまともに取り合おうともしませんでしたが、お姉さんが「みんなあなたのことを心配して言っているのがわからないの!」とビシッと言うと、途端に叔父の態度に変化が表れました。親戚の間でも頑固者で有名だった叔父ですが、小さい頃からお姉さんには頭が上がらなかったようです。 「もし、あなたが他所の人をはねて死なせたりしたら、みんなここに住めなくなるかもしれないのよ!」こんな言いにくいことをズバッと言えるのも、姉弟の関係だから。その場にいた私たちも伯母さんの言葉に続く形で、「みんな叔父さんのことが心配なんだよ」「ずっと元気でいて欲しいと思ってるから言ってるんだからね」と声を掛けると叔父は、「わかった。ちゃんと考えるよ」と言ってくれました。  それから2週間後、叔父は自主返納しました。(40代・女性)
九州大学大学院教授・日本交通心理学会副会長 志堂寺和則氏 コメント
 あの人に言われたらそうするしかない、というような本人が逆らえない人がいる場合は、その人に免許返納について話をしてもらうことはとてもいい方法です。本人はまだまだ免許返納は先だと思っていても、そういう影響力のある人から諭されたら、本人も免許返納について考えざるをえません。  誰が話をするかは説得を成功に導く要因のひとつです。同じことを言っても、言う人次第で結果はまったく違ってきます。本人が一目置くような人、尊敬をしている人、頭があがらない人等、さまざまだと思いますが、そういった人からの言葉は、本人にはとても重く感じられます。これは話の内容というような理屈ではありません。心理的な力関係、影響力です。  問題は周囲を見渡してもそういう影響力を持つ人がいない場合です。そういった場合は、専門家の力を借りてはどうでしょう。自治体、警察、医療機関等に相談をしてみてください。アドバイスをくれたり、適切な方を紹介していただけたりすると思います。  また、皆で協力して説得をする体制をつくることも重要です。皆で一斉に攻め立てても、本人は反発をするだけです。本人との心理的な関係をよく見て、どの人がどういう役をやるのが適切かをよく考える必要があります。この例の場合、叔母さんから、適当に相槌を打つだけでいいから来てほしいと依頼を受けています。いてもいなくても良い役割のようにも見えますが、叔母さんにはこの方に来てもらうことが返納説得を成功させる上で必要と思えたのだろうと思います。そして、実際に、お姉さんの強い言葉の後で、少し優しく声をかけるという役目を果たしています。本当にうまく体制を作って説得に当たった叔母さんの勝利ですね。

成功例「返納アドバイザーの話を聞いて」

高齢ドライバー
※写真はイメージです。
 半年ほど前から、父が車をよくぶつけるようになりました。最初は駐車の際に軽く擦る程度でしたが、だんだんキズが大きくなって……。このままでは父の命にかかわると思い、自主返納の説得を始めました。しかし娘である私がいくら頼んでも、「心配しすぎだ」と笑うばかりでちゃんと話を聞いてくれません。私だけではダメだと思い、弟夫婦を呼んで協力してもらいました。すると、「お前ら、寄ってたかって俺から免許を取り上げようとしているのか!」と怒ってしまいました。それからは何を言ってもダメ。免許の話を出すたび、親子の絆が音を立てて壊れていくような気持ちになりました。  そんなとき、地域の自治会で「自主返納問題」をテーマにした講演会があることを知りました。詳しく知りたいと思い、自治会長さんにお話を聞きに行きました。自主返納をした高齢者の方が地元警察からアドバイザーの委嘱を受けて、返納後の不安についてご自身の経験からアドバイスをしたり、ご家族の相談に乗ったりという、ボランティア活動をされているとのことでした。  講演会に参加して一番の収穫だったのは、自分と同じ悩みを抱えたご家族と横のつながりができたことです。悩んでいるのは私だけではない。そのことがわかっただけで少し心が楽になりました。同じ地域なので悩みも似ているし、返納後の家族の支援の方法なども聞けて、とても参考になりました。  最終的には、アドバイザーの方のすすめもあって、地元警察の交通課の担当者を交えての三者面談を行いました。警察から返納後のメリットについての説明があり、「家族を安心させることが一番のメリットなんですよ」という話を聞くと、父は目を閉じて何か考えているようでした。しばらくして目を開けた父は、私に顔を向けてこう言ってくれました。 「今まで心配かけて悪かった。事故を起こしてからじゃ遅いもんな」  その日、父はその足で警察署の門をくぐり、自主返納をしてくれました。  私自身の経験からも、地域で同じ悩みを抱えている家族とつながることは、問題解決に向けた大きな一歩になると思います。(50代・女性)
九州大学大学院教授・日本交通心理学会副会長志堂寺和則氏 コメント
 長年一緒に暮らしてきたご家族の方はかえって免許返納について話がしにくく、また話をしても同意してもらえないというのはよく聞く話です。車を運転している人には、車や運転に対して強い思い入れがあります。きっと、家族旅行とか、送り迎えをしたとか、沢山の思い出があるのだろうと思います。  人間は自由を求める生き物です。自由が制限されると、怒りや反発(心理的リアクタンス)が自然と生じます。運転を続けたいと思っている人に免許返納をすすめることで怒りや反発が出てくるのは当然のことです。そのため、まだ大丈夫だと思っている人に免許返納を説得することは、たいへん難しいことと理解すべきです。  最近、高齢ドライバーの事故についてよく報道されています。自分は大丈夫だ、報道されているような人達とは違う、と周囲には言っていても、心の奥では本当に大丈夫だろうかと、不安を感じている場合も多いと思います。その心理をうまく使い、うまく説得をすれば必ず成功するはずです。  この成功例のポイントは2つあるように思います。ひとつは、近くの同じ悩みを抱える人達と知り合い、話をすることで、困難な免許返納の問題に立ち向かう力を得たことです。これがなければ、父親を説得することを断念していたかもしれません。  二つ目は、アドバイザーの方、警察の方に協力してもらったことです。家族からの説得ではつい感情的になり、心理的な反発も生じてしまいがちです。特に、これまで一家の大黒柱として家族を支えてきたという自負が強い父親の場合は、家族から意見されることは面白くありません。第三者から働きかけてもらうことで、冷静に考えることができるようになることが期待できます。加えて、こういった方々はいろいろと経験をお持ちです。その経験を生かして、相談者の家族の状況に合った方法や内容で話をしてくださると思います。  もちろん、第三者の方に任せっきりというわけにはいきません。話を聞いて、頭では返納したほうがいいことはわかっていても、免許返納を想像すると、自分も年を取ったなとか、今後どのように生活できるのだろうか、といったわびしさや不安が生じます。そういった思いを取り除く、優しくかつ強力な家族からのサポート、このひと押しが必要です。