緑内障によって信号機が
見えないこともある?
視野障害のお話
(西葛西・井上眼科病院 國松志保
先生へのインタビュー)

みなさんは、こんなことありませんか?
同乗者の方から「信号無視しそうになっていたよ」と指摘されたことがある。
歩いていたら急に人とぶつかりそうになったことがある。
もしかするとそれは「うっかり」ではなく「病気」による症状かもしれません。
今回は西葛西・井上眼科病院の國松志保先生に視野障害のお話と視野障害による交通事故を減らすために先生が創設された運転外来について伺いました。

西葛西・井上眼科病院の國松志保先生

目次

インタビュー全編

各記事および動画
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インタビュー動画

  • 加齢により視野が狭くなる病気について

    歳を取ると視野が狭くなるものなのですか?

    國松先生:加齢に伴い視野が狭くなると思われている方が多いのですが、実際には加齢に伴い視野が狭くなるわけではなく、視野が狭くなる病気が増えるということなんですね。 視野障害をきたすのは、具体的には緑内障、網膜色素変性、あとは脳梗塞などの脳血管障害が挙げられます。多くは視力が良いので自覚症状がなく、視野障害に気づかずに運転していることもあります。

    こちらのスライドにあるのが日本人における視覚障害の原因疾患で、18歳以上の視覚障害者手帳を持っている方、12,000人以上を対象にどのような原因疾患で起きたのかを調べた結果になります。1位は緑内障で28.6%、2位が網膜色素変性で14%、3位が糖尿病網膜症12.8%と続くのですが、この緑内障と網膜色素変性という視覚障害の4割が視野の狭くなる疾患となります。推定患者数が2つの病気で異なり、緑内障は490万人と多く、網膜色素変性の方はおよそ2万人と言われています。

  • 緑内障とは

    緑内障はどのような病気なのですか?

    國松先生:緑内障とは、何らかの原因で視神経が障害されて視野が狭くなる病気で、眼圧の上昇がその病因の一つと言われています。このように徐々に進行し、また、真ん中は見えているため自覚がないという特徴があります。

  • 緑内障患者の推定数

    緑内障の患者さんはどれくらいいらっしゃるのですか?

    國松先生:こちらは日本で行った疫学調査の結果で、40歳以上の日本人の有病率は約5.0%ということが分かりました。正常眼圧緑内障の方が多く、検査により発見された緑内障患者さんのうち89%、9割の方は未治療無自覚の潜在患者さんでした。この有病率というのは年代とともに高くなっており、70歳以上の有病率は10.8%、9人に1人ということで、ここからも加齢に伴い緑内障が増えるということがお分かりいただけるかと思います。

  • 緑内障の症状について

    そんなに多くの方が実は見えていない可能性があるのですか?

    國松先生:みんなが見えていないわけではなく、緑内障にも初期・中期・後期という風に病気が進行していくので 、色々な病気の方がいらっしゃいます 。初期の方は普通に見えていますし、後期でかなり進行されている方は日常生活に困っているという方もいらっしゃり、症状というのは様々です。

  • 緑内障の進行は無自覚

    緑内障になるとどのような見え方になるのですか?

    國松先生:緑内障による視野障害の特徴としては、このように良い方の目で見えている像を自分が見えている像として感じています。そのため、片方の目が悪いだけでは自覚しないということが起こりえます。

    もう一つ、この初期から中期、後期という風に進んでいきますが、この変化が非常に ゆっくりと進んでおり、20年、30年かけて進行することがほとんどです。また、真ん中が見えているというのもあり、自覚症状がないことがあります。

  • 緑内障は早期発見・早期治療が大切

    自覚症状が無いからずっと困らないのでしょうか?

    國松先生:緑内障患者さんの生活不自由度を考えてみますと、ある時点で緑内障と診断されて、そこから治療をするのですが、進行をゆっくりさせることはできても少し進んでしまいます。

    黒いところが見えないところですが、だんだんと広がってしまいます。生活不自由度はかなり悪くなるまであまり困らないのですが、最後の最後に急に文字が読めない、歩けないなどと急に不自由になるという特徴があります。

    そこで私たちはなるべく早くに緑内障と診断することによって、その時点から治療すると進行を少し食い止めることができます。そして治療を継続していただくことによって、一生困らないで過ごしてもらいたいと思って治療をしています。つまり早期発見・早期治療・治療の継続が重要なんですね。

  • 緑内障は視力検査だけでは気づかない

    免許更新の検査や健康診断では分からないのですか?

    國松先生:免許更新では片目の視力が0.3に満たない時のみ視野検査が行われます。なのでほとんどの方が視力検査のみでパスをしてしまいます。また、健康診断で視力検査だけ行っても視野障害があるかどうか、緑内障があるかどうかというのは分かりません。

  • ドライバーに必要な検査

    ドライバーに必要な検査とはどのような検査なのですか?

    國松先生:大きく分けると視力検査・眼圧検査・眼底検査・視野検査とありますが、このうち視力検査と眼圧検査というのは眼科検診や人間ドックで通常行われることが多いです。この眼底カメラ撮影というのも眼科検診や人間ドックで行われています。これに対して詳しい眼底検査であるOCT 検査や視野検査というのは医師の判断によるものですので眼科を受診しないと受けられません。

  • 眼科検査について視能訓練士さんに聞いてみました

    深野 佑佳さん:一般的な検査としては視力検査、眼圧検査、視野検査、眼底検査があります。

    視力検査は近視・遠視・乱視の有無と、どのくらい見えているのか調べる検査です。皆さんも検診とかでよく行っていると思うのですが、黒い輪っかの空いている方向を見てお答えしていただく検査になっています。

    眼圧検査は目の硬さを調べる検査になります。検査としては空気が目に触れますが特に痛みは感じない検査となっています。

    視野検査は見える範囲を調べる検査です。光が見えたらボタンを押すという検査方法になります。
    時間としては片目約7分程度の検査時間で終了することができます。

    眼底検査は瞳に光を通して目の奥の視神経の束の状態を調べている検査です。

    OCT検査は、目の奥の網膜の断面図を調べる検査です。

    特に痛みがある検査はほとんどなく、視野検査は少し普通の検査よりは時間がかかりますが、それでも片目7分程度で両目でも10分から15分程度で終わる検査なので、辛い検査は全くありません。

  • 検査は基本的に健康保険が適用される

    検査のためだけに眼科にかかると自費診療になるのですか?

    國松先生:眼科検診や人間ドッグで異常を指摘されて精密検査が必要と言われた場合は保険診療となります。そうでなくても、気になる症状があるとか目に病気がないかどうかも調べて欲しいというような場合でも、最終的にはその病院の判断にはなりますが、基本的には健康保険が適用になると考えていただいて良いかと思います。費用につきましては、3割負担の場合は初診料も含めてだいたい2,500円から5,000円ぐらいです。その方に必要だと思われる検査の数によって費用が異なってきます。

  • 視野障害と車の運転について

    緑内障などの視野障害があると車が運転できなくなるのですか?

    國松先生:視野障害があると自動車が運転できなくなるというわけではありません。しかし、例えば緑内障を放置してさらに進行してしまったり、視野障害に気づかず注意無く運転してしまうと、事故が起きる可能性があります。

  • 運転外来について

    運転外来とはどのようなことをするのですか?

    國松先生:運転外来では患者さんにドライビングシミュレーターを体験していただきます。そして、その患者さんの視野検査結果と照らし合わせることによって、その視野障害によってどういう事故が起こり得るかとか、ご自身の見え方がどのような見え方なのかというのを運転の場面に重ね合わせて知っていただくということをしています。

    トヨタ・モビリティ基金 担当者:私が実際にドライビングシュミレーターを体験してきました。 ドライビングシミュレーターは約5分で、運転中の目の動きや左右方向からの飛び出しなどの出来事が起きた場合に、ドライバーがどのような反応をするのか、また、事故を回避できるかどうかをチェックしてもらいます。その後、眼科医や視能訓練士さんがリプレイを見ながら視野障害が運転能力に及ぼす影響を検討して、ドライバー自身やご家族の方に安全運転のために必要な注意点についてアドバイスをします。

  • 運転外来の患者様の例

    國松先生:それでは実際に患者様の例をご紹介したいと思います。こちらは 67歳の男性の方で、15年前に検診で眼圧が高いことを指摘され眼科を受診し、緑内障と診断されて点眼治療を開始しました。台所の上の扉が開いているとぶつかることがあったそうです。また、奥さんから危ない運転をすると指摘されたこともありました。

    この患者さんの視野検査結果が上に示したものです。下に健常者の方の視野も合わせています。右目・左目の見え方、黒いところが患者さんの見えないところです。そしてその右目と左目重ね合わせたものが、この中央の見え方、患者さんの実際の見え方になります。このように両目合わせてもこの黒いところが、実際に黒く見えているわけではないですが、見えないということです。台所の上の扉にぶつかってしまうということでしたが、ちょっと上のものが見えないのでぶつかってしまうということが起きたと考えられます。

    ドライビングシュミレーターを体験いただいた場面を静止場面にし、健常者の方と患者さんの見え方を並べたものになります。左の方の健常者では赤信号がありますが、この方は赤い点のある先行車の辺りを見ていると、上方の視野障害があるため信号があたかも消えてしまうような見え方になります。そのため、先行車を見ていて赤信号を見落とすということが起こってしまいました。

    ※患者さんのドライビングシミュレーターの体験映像はこちらをご覧ください。

    次は75歳の男性です。20年前に緑内障と診断されました。

    こちらが患者さんの視野検査の結果ですが、右目も左目も下方が見えていないです。そのため、両面合わせても黒くなっているところが、実際に黒く見えるわけではないですが、下方が見えていないという方になります。この方は割烹の店主をされているのですが、仕事でお客さんにお酒をつぐ時に手を伸ばしてつぐとこぼしてしまう、 つまり少し離れるとつぐところが下の方の視野に重なってしまうのでこぼしてしまうそうで、手前に持ってきてこぼさないように気をつけているということでした。しかし運転時の自覚症状は全く無いというお話でした。

    ドライビングシュミレーターを体験いただいた場面を健常者の方の見え方と並べたものになります。健常者の方は正面を見ていても左から白いトラックが来るのを見ることができます。ところがこの患者さんは下方の視野障害があるために、正面を見ているとこのトラックが消えてしまいます。そのため、左から白いトラックが来るのに気が付かずに衝突してしまったというわけです。

    ※患者さんのドライビングシミュレーターの体験映像はこちらをご覧ください。

    このように視野が欠けていることに気づかずに運転しているケースがあります。自分の自覚症状がないことを自覚してもらう、自分の見え方を理解してもらう、そういったところに運転外来の意義があると思っています。

  • 運転外来で注意すべきところを知ろう

    シミュレーターで事故を起こしたら運転しないほうが良いということですか?

    國松先生:危険な運転になってしまう方はごくわずかです。注意をして運転すれば大丈夫という方がほとんどです。大切なのは、どのような運転場面で注意をすればいいのかを知ることです。運転外来はお一人お一人の視野障害パターンに応じて、安全運転のためのアドバイスをしています。

  • 視能訓練士さんが現場で感じていること

    運転外来の指導時に感じていることについて視能訓練士さんに聞いてみました

    平賀 拓也さん:運転外来を受診している方の半分以上の方が自分自身の視野障害を認識せずに運転をしており、運転外来を受診して初めて自分自身の視野のどこが見えにくいかを気づいているような印象があります。運転外来は運転をやめさせるわけではなく、自動車事故のリスクを減らすために行っているので、運転で少しでも不安があれば受診をしていただきたいと思っています。

  • 國松先生が現場で感じていること

    先生が運転外来の診察で感じ、高齢者にお伝えしたいことは?

    國松先生:まずは眼科にかかってご自身の見え方を知っていただきたいと思います。その上で、例えば上の方が見えなかったら信号の見落としに気をつけるというようなことができると思います。ただ、どんなに注意をしても、どうしても歳を取ると判断力が落ちたり、反応速度が落ちてくると思います。そのために、若い時ならば間に合ったタイミングでも間に合わないことがあると思います。そういうことでリスクが増えるということは知っていていただきたいと思います。

  • このような病名を聞いたら眼科を受診しよう

    他に先生がお伝えしたことはありますか?

    國松先生:今日は一番事例の多い緑内障を中心に説明をしましたが、脳出血 、脳梗塞、くも膜下出血といった 脳血管障害でも視野が半分見えないなどが起こり得ます。しかも自覚症状がその場合もありません。そのために、このような病気の既往がある方は眼科受診をすることをお勧めしたいと思います。

    眼科検診や人間ドックで精密検査が必要となった場合に、特に注意をしていただきたい医師のコメントは視神経乳頭陥凹拡大、眼圧高値、網膜出血や眼底出血です。これらを放置することにより自覚症状のないまま症状が進行し、事故を起こしたり運転ができなくなるかもしれません。すぐに眼科で精密検査を受診するようお願いします。 眼科を受診せずに放置すると気がつかないうちに信号や標識を見落としたり左右からの飛び出しへの反応が遅れる危険性があります。

  • 緑内障運転絵巻のご紹介

    先生がつくられた緑内障の啓発映像について

    國松先生:特に今回はご高齢の方にも楽しく緑内障について学んでいただきたいと思い、ちょっと浮世絵風に作ってみました。是非見ていただきたいと思います。視野障害のある患者さんは自分の見え方が健常な皆さんと全く同じだという風に思い込んでいたり、とにかく自覚症状がないです。そのために是非一度、眼科を受診していただいて、ご自身の見え方や病気があるかどうかということに興味を持っていただきたいと思います。

  • 先生今日はありがとうございました