運転診断サービスで分かる!
高齢ドライバ―の運転傾向(一般社団法人高齢者安全運転診断センターへのインタビュー)

 ご家族が高齢ドライバーに運転能力の低下を指摘したり、運転免許の返納を説得しようとしても、多くの場合はなかなか納得してもらえず、場合によっては感情的なもつれにまで発展してしまうこともあります。こうした話し合いが思うように進まない場合、第三者が提供するサービスを利用することで、ドライバー本人が自身の運転を客観的にとらえるきっかけをつかめるかもしれません。  その代表例が、一般社団法人高齢者安全運転診断センター(以下、高安診)が提供する診断サービスです。このサービスの内容や効果、高齢ドライバーを取り巻く環境全般などについて、高安診の事務局長を務める橘則光様と事務局 研究・広報統括 分析担当を務める小林竜也様にうかがいました。
一般社団法人 高齢者安全運転診断センター
事務局長 橘則光様
一般社団法人 高齢者安全運転診断センター
事務局 研究・広報統括 分析担当 小林竜也様

高齢ドライバーの多くが「マイナスの成功体験」にとらわれている

― まずは高安診を設立された背景や、取り組みの狙いについて教えてください。
橘様:高安診は「高齢者の方々にできるだけ長く安全運転を続けていただくためのサービスを提供する」という目標を掲げ、2017年4月に発足した一般社団法人です。もともとは、事故調査会社と東京大学、神奈川大学、ドライブレコーダーメーカー、自動車教習所などが集まって2013年に発足した産学共同プロジェクトが母体となっています。当時から事故調査の統計データを見ると、高齢ドライバーによる事故が増加傾向にあることは分かっていましたから、これから訪れる超高齢化社会においては高齢ドライバー問題がより深刻化することは明らかでした。
― ここ数年の間で、高齢ドライバー問題は急速にクローズアップされてきましたが、実際のところ高齢ドライバーを取り巻く環境はどのように変わってきたのでしょうか?
橘様:高齢者による交通事故の割合は確かに増加傾向にありますが、これは高齢者の人口が増えてきたことが原因で、実は高齢者が交通事故を起こす件数が増えているわけではありません。一方、メディアが盛んに高齢ドライバーの事故を取り上げるようになり、痛ましい事故がセンセーショナルに報道されたことから、世間一般的に高齢ドライバー問題が注目を集めるようになったという背景もあります。
― 高齢ドライバーがアクセルとブレーキを踏み間違えて、車を暴走させてしまったという事故が取り上げられるようになりました。
橘様:実は踏み間違いが原因の事故は、以前から発生していました。また高齢者だけに限らず、若いドライバーもアクセルとブレーキを踏み間違えることはあります。しかし若いドライバーは、踏み間違いに気付いたらすぐに正しく踏み直せます。一方、高齢ドライバーは運動能力が低下しているため、正しく踏み直せずに車の動きを止められずパニック状態に陥ってしまい、思わずブレーキではなくアクセルを踏み続けてしまうわけです。また高齢化に伴い、首の可動範囲が狭くなってしまったために、目視による安全確認の範囲が狭くなってしまい、結果的に危機を察知できずに事故に至ってしまうケースもよく見られます。
― 加齢による運動能力の低下が事故にまで繋がってしまうケースが多いのですね。
小林様:はい。また運転歴が長い方ほど、事故を起こしても「今まではこの運転で大丈夫だったのだから、今回はたまたま運が悪かっただけだ」と考えてしまう傾向があります。例えば一時停止の標識が立っている交差点で、一時停止を守らずに通過して何事もなかった経験を積み重ねてしまうと、そのうち「ここは止まらなくても大丈夫な場所だ」という思い込みが刷り込まれてしまい、結果的に危険な運転に繋がってしまいます。こうした誤った思い込みのことを、私たちは「マイナスの成功体験」と呼んでいます。事故を起こした高齢ドライバーには、こうした誤った認知にとらわれているケースが少なくありません。
― 普段から走り慣れている場所でも過信せずに安全確認を欠かさない運転姿勢が大切ということですね。

高齢ドライバーが運転する様子をドライブレコーダー映像で分析・診断する

― 高安診が提供されている診断サービスの内容を簡単に教えてください。
橘様:サービスの利用者に対して、まず専用のドライブレコーダー装置をお送りします。これを普段運転する車に同梱のマニュアルに沿って取り付けていただき、最低でも90分間運転していただきます。通常のドライブレコーダーは車の外の様子を録画するのですが、私たちが貸与するドライブレコーダーは同時に車内のドライバーの様子も録画します。その後ドライブレコーダーを返送していただき、高安診の分析員が録画された内容を分析します。ドライブレコーダーで撮影した車内と車外の動画、そして車の速度などのデータを総合的に分析して危険に繋がるドライバーの癖や操作などがないかどうかを診断し、その結果を診断書にまとめてお渡しします。
個人向け診断サービスで提供される診断書(サンプル)
― ドライブレコーダーを使ったサービスは企業からも提供されていますが、高安診のサービスは他のものとどう違うのでしょうか?
小林様:最近では、損保会社がドライブレコーダーを使って危険運転や事故を検知するサービスを提供されていますが、その多くはドライブレコーダーに内蔵されたGセンサーを使って急ブレーキや急加速、衝撃などを検知し、ヒヤリハットの危険状態のみを記録あるいは録画するサービスです。テレビなどでタクシーから撮影された動画として紹介されているものが典型例です。このようなサービスの場合、録画されるのは危険状態が発生した前後数十秒程度のみです。一方、高齢ドライバーの方は一般的に、急ブレーキや急加速といったいわゆる「荒い運転」は行いません。むしろスピードを抑制して慎重に運転するので、車の動きだけに着目すると安全運転で、とてもリスクがあるようには見えません。しかし実際に高齢ドライバーが運転する様子を観察してみると、一見安全に運転しているように見えて、実はちょっとした安全確認が疎かになっていたり、反応が遅かったりと、あちこちに危険の種を見いだすことができます。こうした高齢ドライバー特有のリスクの予兆は、Gセンサーのような機器で車の挙動を測定するだけではなかなか見付けられないため、運転している様子をある程度長時間で録画し、その内容を専門家がつぶさに分析・評価する必要があるのです。
ドライブレコーダーの映像から自分の運転を再確認
― 一般的なドラレコサービスでは高齢ドライバーの危険運転は検知できず、高安診のような長時間録画が必要なのですね。ところでこのサービスを申し込まれるのは、高齢ドライバーのご家族の方がやはり多いのでしょうか?
橘様:高齢ドライバーご本人より、やはりご家族の方からのお申込の方が圧倒的に多いですね。自らサービスの利用を望まれるドライバーは、既に安全意識が十分に高い方がほとんどですから、あまり問題にはなりません。むしろ、高齢ドライバー本人は「まだまだ大丈夫」と思っているものの、そのご家族の方々が心配してサービス利用を申し込むケースが大半です。

小林様:「車の運転に自信がありますか?」というアンケート調査を行うと、高齢になればなるほど「自信がある」という回答が多く寄せられます。このことからも分かるように、やはり高齢になればなるほど「マイナスの成功体験」をたくさん積み重ねているため、自分の運転を客観的にとらえるのが難しくなってくるんですね。ちなみに私は高齢の親と運転について話すとき、「テレビゲームをやってみては?」と聞いてみることがあります。すると「ボタンがいっぱいあってわからない」とか「操作が難しくてできない」という答えが返ってくるのですが、よくよく考えてみると運転とテレビゲームは「見て、認知して、判断して、操作する」という作業自体はほぼ同じです。にもかかわらず、「テレビゲームは無理でも、運転なら大丈夫」と考えるのは矛盾しています。そんなことをきっかけに、高齢者自身に運転のリスクについて自覚してもらうのも手かもしれません。

運転の操作ではなく運転に際しての「意識」を変えてもらう

― 最近では、衝突被害軽減ブレーキやペダル踏み間違い急発進抑制装置などを装備した「サポカー(安全運転サポート車)」が注目を集めています。高齢ドライバーはサポカーに乗り換えれば事故は防止できるのでしょうか?
小林様:高齢ドライバーによる事故を未然に防いだり、被害を軽減するための技術として、これらは極めて有効だと思います。その一方で、サポカーに対して誤った認識を持たれている高齢ドライバーの方も多く見受けられます。高齢の方ほどサポート機能を過信する傾向があって、極端な例では「車が危険を検知してくれるから、車線変更時に目視の確認はしていない」という方もいます。当たり前のことですが、サポート機能はあくまでも人間の操作をとっさの際にサポートしてくれるだけで、あくまでも車を運転するのは従来通り“人”であることを忘れてはいけません。それにたとえサポカーに乗っていたとしても、万が一事故を起こしてしまったときに責任を取らされるのはドライバー本人です。決して機械のせいにすることはできません。
― ちなみに高安診の診断サービスを実際に受けた方やそのご家族の方からは、どんな声が届いていますか?
橘様:診断結果を受けて高齢ドライバーご本人とそのご家族の方々で話し合った結果、運転が改善されたり、免許返納を決意したという声が届いています。私たちのサービスでは紙の診断結果だけでなく、ドライバーが運転する様子を収めた動画データもあわせて提供しています。文字だけではピンと来ない指摘内容でも、実際に自分が運転している様子を映像として突き付けられると、どんなに頑固な高齢ドライバーでも問題を認めざるを得ません。私たちのサービスの最大の特徴は、この動画データを客観的な情報としてお見せすることで、高齢ドライバーご本人に自身の運転を少しでも客観的にとらえていただき、その後の安全運転に生かしてもらえるという点にあります。
― 具体的にどのように診断結果を活用すれば、高齢ドライバーの安全運転に繋がるのでしょうか。
小林様:高齢になればなるほど、これまで続けてきた運転の操作そのものを変えるのは困難で、無理に運転方法を変えようとすると、かえって危険に繋がる可能性もあります。従って運転の操作そのものではなく、運転に臨む際の「意識」を変えていただくことをお勧めしています。例えば「必ず安全確認をする」「アクセルを踏む前にギアの位置を確認する」といったことを強く意識するだけで、とっさの危機回避行動が必要となるような場面を起こらないようにすることができます。私たちが提供するサービスが、そうやって高齢ドライバー一人ひとりが意識を向けるべきポイントを見付ける上でお役に立てれば幸いです。
― 高齢ドライバーは自分の運転を客観的に見つめなおす機会を作り、これまでの成功体験を過信せず、安全確認について強く意識しながら運転を続けることが大切ということですね。どうもありがとうございました。